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オープンデータプラットフォームを活用した学術論文共同執筆のためのオープンアクティビティ

ライセンス : CC0
更新: 2014年12月1日

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(執筆途中です) ・2014.6.5 執筆開始
更新: 2014年6月5日 (遠藤守)
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【著者・所属】 遠藤守1, 浦田真由2, 中貴俊3, 山田雅之3, 宮崎慎也3, 下山紗代子4, 豊田哲郎4, 安田孝美1 Mamoru ENDO, Mayu URATA, Takatoshi NAKA, Masashi YAMADA, Shinya MIYAZAKI, Sayoko SHIMOYAMA, Tetsuro TOYODA and Takami YASUDA 1名古屋大学 情報科学研究科 Graduate School of Information Sciences, Nagoya University 2名古屋大学 国際開発研究科 Graduate School of International Development, Nagoya University 3中京大学 工学部 School of Engineering, Chukyo University 4理化学研究所 情報基盤センター Advanced Center for Computing and Communication, RIKEN
更新: 2014年6月20日 (遠藤守)
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【要旨】 近年の自治体によるオープンデータ推進など,オープンイノベーションが様々な分野に波及してきている.一方で学術研究分野におけるオープンな環境での研究成果の蓄積および公表は様々な理由により遅々として進んでいない.本稿ではオープンデータプラットフォームを用いて学術論文を共同で執筆する試行を行ったので,ここに報告する.
更新: 2014年6月18日 (遠藤守)
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【1.はじめに】 ICT技術の発展は学術研究分野においても多大な影響を与えている.研究活動における様々な場面でICTの活用は進んでいるが,一方で近年,研究成果の剽窃や捏造,ギフトオーサーシップなどの不正行為を容易にする側面も指摘されている.今後の学術研究機関・コミュニティとその活動においては,より一層の透明性が求められているほか[1],ネットワークを活用した積極的な情報共有の観点から生み出される革新的発見への期待が高まっている[2]. 研究者が行う業務の一つに,研究成果を学術論文として発行することを目的とした執筆業務がある.学術論文執筆文化は未だ紙面による公表を前提としたものであり,インターネットが普及した現在において一層の改善の余地が見込まれる. 本稿では,近年期待が高まりつつあるオープンデータ推進の活動に着目し,これに用いられる手法やプラットフォームを学術論文執筆の事例に当てはめる.具体的には,オープンデータプラットフォームを活用しつつ論文の共同執筆を試みることにより,インターネットを活用したオープンな場での研究成果の収集・整理や公表についての利点および課題を明らかにする.これらの成果により,今後の学術研究や研究成果の公表のあり方についての新たな可能性を示唆するものであると考える.
更新: 2014年6月20日 (遠藤守)
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【2.オープンアクティビティとそのプラットフォーム】 (1) オープンアクティビティの定義 本稿における「オープンアクティビティ」とは,情報科学分野において,1980年代にRichard Stallman氏が開始したフリーソフトウェア財団による「フリーソフトウェアの定義」[3]や,1990年代後半のフリーソフトウェア財団による「オープンソースの定義」[4]の概念から派生した概念である「自由で開かれた活動」と定義する.ここでいう「活動」とは,フリーソフトウェアやオープンソースの発展に貢献したインターネットを基盤とするコミュニケーション手段を積極的に活用した活動である.またその活動の適用範囲は情報科学分野に留まらず,同様の手法によって適用可能な他の様々な分野における活動のことを指す.またその活動主体は,インターネット上に形成されたコミュニティおよびそのメンバがその推進役である. (2) オープンアクティビティの事例 フリーソフトウェアやオープンソースの分野において,その主目的はソフトウェアの生産や普及にあった.その後インターネットなどを活用したその手法がソフトウェア分野だけでなく他の分野にも波及するようになった. 当初は情報科学分野における,ドキュメント作成や登録制検索サイトなどで試行され,その後,creative commons[5]やwikipedia[6]などの活動へと広がった.またハーバード大ロースクールのLawrence Lessig氏が提唱する「Openlaw」[7]の概念がある.これは広く公衆の助けを得ながらオンラインで議論を組み立て,弁論の草案や趣意書の作成をオンラインコミュニティによって進めるものである. また近年では自治体の情報公開の透明化などを目的として進められている「オープンデータの推進」活動があり,この活動を市民主体で行おうとする取り組みがある.地域住民らが自治体が提供するごみ収集カレンダーをもとに自分たちの町のごみ収集日を一目で確認できるアプリケーションを構築する「5374(ゴミナシ).jp」[8]や,イギリスのOKFN[9]が開発した,自分が収めた税金がどのように使われているのかを行政が公開する予算案や決算資料をもとに可視化する「税金はどこへいった?」[10]などがある. (3) LinkData : オープンデータプラットフォーム LinkData[11](図1)は,もともと生命科学分野における膨大な情報を,RDFを含む様々なデータ形式に変換し利活用するプラットフォームとして開発された.その後行政が推進するオープンデータのプラットフォームとして一般向けの改良が施され,現在はオープンデータの登録・閲覧と公開を支援するLinkData.orgのほかに,登録されたオープンデータを用いたアプリケーション開発支援をするApp-LinkData,オープンデータを活用・推進するアイデアの登録・閲覧と公開を支援するIdea-LinkData[12],さらに登録されたオープンデータに付けられた市町村タグからオープンデータを推進する市町村ランキングを公開するCityDataなど,現在までに合計4つのサービスの提供に至っている.なお,Idea-LinkDataに類似するサービスとしてnanopub[13]が存在する. とくにIdea-LinkDataは,アイデアをブレインストーミングし共有するための基本機能として以下に挙げる主要機能を提供している. ・ウェブサイトやテキスト・画像・動画・スライド等の各種コンテンツの追加 ・引用追跡機能の実装と評価指数のリアルタイム可視化 ・作成したアイデアへの市町村タグの付加とCityDataとの連動 ・生成したコンテンツブロックの簡便操作による整理機能 ・生成したコンテンツブロックのRDFによる配信機能 これらの機能を用いて,アイデア登録者および共同編集者は自由にアイデアを編集しより良いコンテンツに仕上げてゆくことが可能となる. 中でも,Idea-LinkDataにおける引用追跡機能や評価指数の可視化の機能は学術論文分野におけるインパクトファクターの概念を設計当初から意識的に導入されており,他の共同執筆が可能なクラウド対応型文書作成ソフトと比較した際の大きな特徴であるといえる. 本研究においては,Idea-LinkDataの活用を前提に学術論文の共同執筆を行うこととする.
更新: 2014年6月20日 (遠藤守)
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図1. LinkData
更新: 2014年6月18日 (遠藤守)
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【3.学術論文文化とオープンアクティビティ】 前項にて取り上げたIdea-LinkDataを用いて学術論文を共同執筆する際,主に下記の点において議論になると思われる. (1)秘匿性の高い研究の取り扱い 外部資金による研究の遂行や守秘義務により保護された内容を扱う研究では,オンラインで執筆を行うこと自体,許されない行為として最も避けられる原因になると推測される.一方でこの議論は,特に科研費などの国の補助を得て進める研究など,オープンデータの取り組み中にしばしば話題となる同種の議論に直面することが予想される.それは自治体が開発するシステムや保有する情報の価値が「自治体の財産」から「税金を費やして得られた公共財」へと認識が変化する過程で,どの段階でどの程度の情報公開が行われるべきかといった議論である.最近の事例では自治体が発注するシステムやコンテンツの透明性を高めることを念頭に,これら発注物の納入をオープンソース・オープンデータとして納入することを条件にする事例が出始めている. (2) 研究者に対するインセンティブの向上 研究者が論文執筆を行う際,現状ではその行為から直接的に得られる利点は非常に少なく見積もられると推測する.しかし他のオープンなアクティビティと同様に,多分野におけるイノベーションが引き起こされてきた歴史と事実を振り返れば,その効果は自明であると考える.このインセンティブを向上させる直接的な手段としては,研究者自身がオープンな環境で活動を行うことによるメリットを自助によって得る方法と,外部資金等による助力を得て進める方法がある.前者についてはとくにIdea-LinkData等を利用して,アイデア段階から早目に宣言をすることで,既成事実化を図るといった挑戦的で新しい研究スタイルの事例として活用される可能性がある. (3) 執筆者と助言者の役割や貢献 一般に学術論文の執筆者は当該研究を遂行する上で何らかの役割を担った人間が名前を連ねる.しかしオンラインで共同執筆を行う際には論文執筆中のどの段階で共同執筆者が増える,もしくは減るかは,論文を書き終えるまで分からない可能性がある.また,オンラインで執筆を進める関係上,共著者を含む論文執筆者と,内容を読んでアドバイスをした助言者の扱いをどのように分けて扱うべきかについてのガイドラインなどは存在しない.このため,助言者が論文執筆上重要な提案や貢献を果たしたとしても,必ずしも共著者として加わるかどうかはわからず,その判断は全執筆者の総意もしくは責任著者の判断に委ねられる. (4)「公開」に対しての考え方の違い オンラインでアクティビティを開始した際,プロジェクトは何もない状態から始まる.しかもこれらのプロジェクトはどこかの段階で完成したとしてもその後,必要に応じて改変される可能性がある.一方で,学術論文は一定の成果が蓄積され公表に至った段階で著者らが論文としてまとめ,執筆し学会等に投稿する.投稿された論文は査読審査もしくは一定の基準に沿ったプロセスを経て,学術論文として公開される.さらに,公開後の論文の著作権は多くの場合,学会に帰属することとなる.この点において,オンラインで論文執筆を開始した際にその状態が「公開」にあたるのかどうか,また一旦は著者によってCCライセンスが付与されたものを後になって変更するといった行為の是非については議論の余地が残る.また公開後の論文は一旦パブリッシュされるとその後の変更は原則的に認められない. (5)「学術論文」として成立するための条件 一般的な学術論文にはタイトルや著者情報,要旨からはじまり,はじめに-関連研究-内容-実験-考察-おわりに-参考文献といった,一連の流れによって記述される.これらの情報は複数ページにわたり記載されているが,最初のページから最終ページまでの全ページをもってはじめて一本の論文として成立する.これはオンラインジャーナルでも同様で,全てのページが1ファイル中に正しい順序で配置されていることが要件とされる.しかしオンラインで共同執筆の際,例えばidea-LinkDataで生成されるコンテンツブロックは視覚的には同一ページに配置されるが,内部的には個々のコンテンツは独立して存在している.したがってRDF情報などでの配信の際には,必ずしも論文中の全ての文章や図表が執筆者の意図通りに配信されるとは限らない. (6) 紙媒体であることによる制限 一般的な学術論文では標準執筆頁数が規定されている.これらの制限を超える場合,コミュニティによっては超過頁数に応じた追加料金が課されるため,執筆者らはこの規定の範囲内で文字や図表が収まるように調整しつつ,執筆を行う.これらの空間的制限はオンラインの論文執筆時にはイメージしずらい. (7) オンラインコンテンツに対する信頼性の確保 学術論文における参考文献を例に挙げると,長い間紙によって出版された学術論文や文献を対象としてきた.近年ではオンラインでのみ閲覧可能なウェブサイトやドキュメントが増えてきたため,閲覧日を付与するなど一定の条件をクリアすることによりこれを認める動きが出てきている.一方で参照されたウェブサイトが消失した場合の信頼性の担保をどのように行うかについては,議論の余地が残る.
更新: 2014年6月20日 (遠藤守)
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【4.「都道府県におけるLinkDataを活用したミニマムオープンデータ推進戦略」の執筆事例】 (1) 概要 本稿執筆のきっかけとなった最初の事例であり,日本国内におけるオープンデータ推進を行う上での,都道府県の役割について提言し論じる学術論文の共同執筆活動である.共著者は本稿と同一の執筆者である.2014年6月5日にSNSであるFacebookにて筆頭著者である筆者により提案され,同日Idea-LinkData上にアイデアとして掲載を開始した.その後同日中に共同執筆者の全員が編集者として加えられた.2014年6月19日現在,同論文は完成に至っていない. (2) 試行実験の実施と経過  Idea-LinkData上で進められた本試行の当初は,あまり反応が得られず共著者間でのやり取りに終始した.反応が得られにくかった理由として,学術論文の執筆そのもののプロセスが一般のネットユーザにとってなじみが少ないことや,文体や論理構成が論文の文化特有の方法によるため,コメントがしにくいのではないかと推測された.そこで執筆内容を広く一般のネットユーザに知ってもらい,コメント等を得るため以下の措置を講じることとした. ・Idea-LinkDataに執筆した各コンテンツブロックの内容を一般の方にも理解しやすい文章にし文章自体も短く整理 ・整理した情報をSNSサービスの一つであるFacebookにて掲載 ・掲載された情報へのコメントや,シェア(Facebookでのいわゆる引用)機能によって反応があったものに対して,著者および共著者がFacebook上で反応 ・展開された議論をまとめ,Idea-LinkData上の記事に反映 ・反映された議論をまとめる過程で新たな提案が想起された場合にはその都度Facebook上で議論を展開,必要に応じて論文にも修正・加筆を加える 以上の作業は通常の執筆活動では起こり得ない事象ではあるが,この措置を講じることにより,短期間のうちに一定の反応および成果を得ることができた. また,執筆中の共著者とのやり取り方法については特に制限を設けなかったが,距離的に近い共著者とはオンライン(Idea-LinkData,Facebookや電子メール)およびオフライン,遠い共著者とはオンラインでやり取りを行った.
更新: 2014年6月20日 (遠藤守)
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図2. Idea-LinkDataによる論文の共同執筆
更新: 2014年6月18日 (遠藤守)
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【5.考察】 共同執筆の試行実験を進める過程で得られた考察について述べる.  まず,論文の骨子が確定しない段階から執筆を開始することにより,様々な議論を都度,共著者やオンライン上の助言者の助力を得て発展させながら進めることが可能になったと感じた.具体的には,まず都道府県がオープンデータを推進する上での問題点として,経済的コストと時間的コストをどのように最小するかといった議論が展開された.この議論から得られた提案として,研究者の助力により,たとえばカタログサイトの試行版を早急に準備し運用することで,本番前の試行を事前に行政関係者に提供可能であるといったアイデアを想起するに至った.このアイデアは即日,筆者により実施され,カタログサイトの提案自体も試行実験中の論文にも掲載された.このことから,論文執筆という作業が,これまで行った内容を整理しまとめるという従来のスタイルから,実際の研究活動と合わせて執筆活動を並行して進めるといった,新しいスタイルに変わる可能性を示唆しているものと考える.  また,オンラインで共同執筆を進めるにあたり,従来からの論文執筆のルールをそのまま適用しただけでは議論が展開されにくいことも指摘された.このために今回は一旦著者によってSNSなどで議論を得られやすいような加工を行うという余分な作業が強いられたが,この点についてもう少し作業負担が軽減できるような仕組みが必要であると思われる.  さらに,共著者以外のコメントをする立場の助言者から意見を得やすくするための工夫が必要であると感じた.例えばFacebookでのコメントは原則的に実名が公表されるために,その品質や量に一定の影響を与えたものと推測する.  また,Idea-LinkData上で執筆した文章および図表を従来の紙ベースの原稿としてまとめようとした際,実際の紙面を予想を超えて超過してしまうことが予測され,この点において何らかの措置が必要になると思われる.
更新: 2014年6月20日 (遠藤守)
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【6.おわりに】 本稿ではオープンイノベーションをアカデミック分野において適用することを前提とした様々な検討を行った.具体的にはオープンデータ推進に関する学術論文共同執筆の試行実験を行った.試行実験を通じ,学術論文執筆をオープンデータプラットフォームで行うことの一定の利点や課題が明らかになり,更なる試行の必要性が確認された.今後は得られた考察をもとに本研究の更なる検討および追実験を行う予定である.
更新: 2014年6月20日 (遠藤守)
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【謝辞】 本研究の遂行および執筆にあたりSNS上で貴重なコメントを頂いた全ての皆様に感謝の意を表します.なお,本研究の一部はJSPS科研費(課題番号:25280131)による.
更新: 2014年6月20日 (遠藤守)
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【参考文献】 [1] 根岸正光,山田尚勇(1992):論文の共同執筆についての一考察,国立情報学研究所,学術情報センター紀要, Vol.5, pp.27-39 [2] マイケル・ニールセン 著,高橋洋 訳(2013):オープンサイエンス革命,紀伊国屋書店 [3] The Free Software Definition (1986) : http://www.gnu.org/philosophy/free-sw.en.html (2014.6.19閲覧) [4] The Open Source Definition (1997) : http://opensource.org/docs/osd (2014.6.19閲覧) [5] Creative Commons : http://creativecommons.org/ (2014.6.19閲覧) [6] Wikipedia : http://ja.wikipedia.org/ (2014.6.19閲覧) [7] Openlaw : http://cyber.law.harvard.edu/openlaw/ (2014.6.19閲覧) [8] 5374.jp : http://5374.jp/ (2014.6.19閲覧) [9] OKFN (Open Knowledge Foundation) : http://okfn.org/ (2014.6.19閲覧) [10] 税金はどこへいった? : http://spending.jp/ (2014.6.19閲覧) [11] 下山 紗代子, 西方 公郎, 吉田 有子, 豊田 哲郎 (2012): LinkData.org を使った RDF 教育とデータ公開化運動の推進, 人工知能学会全国大会 (第 26 回)論文集, No. 3C2-OS-13b-2 [12] Idea-LinkData : http://idea.linkdata.org/ (2014.6.19閲覧) [13] Nanopub.org : http://nanopub.org/ (2014.6.19閲覧)
更新: 2014年6月19日 (遠藤守)
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作成:2014年6月17日, 更新:2017年3月29日
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更新: 2014年6月17日 (遠藤守)

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