【エントリー作品の詳細説明】
小倉百人一首LODは、かるたゲームのためのデータを整理するとともに、全国各地の図書館に所蔵している古典籍のオープンデータ画像をつないだデータ基盤である。
本エントリー作品では、LODチャレンジ2017データセット部門で最優秀賞を受賞した小倉百人一首LODに、翻訳データを追加した。小倉百人一首は、誰もが知っている日本の伝統的なかるた遊びであるだけではなく、和歌としても親しまれている。明治期から外国語に翻訳されており、現在も新しい翻訳が創作されている。また、英語だけではなくドイツ語や中国語などさまざまな言語への翻訳もある。本エントリー作品では、小倉百人一首の英語の翻訳作品のデータを作成し、小倉百人一首LODへの追加を行った。また、多言語化のために、語彙の定義を見直し、翻訳のリソースへのリンクをできるようにした。小倉百人一首LODでデータ化していた各地の図書館に所蔵された古典籍画像データと、今回作成した英語翻訳データを結びつけることで、新しい価値を生み、日本の文化情報資源の魅力を世界に発信することが本作品の狙いである。
[翻訳データ追加の詳細]
プラットフォームは従来と同様にLinkData.orgを使用している。ソースの種類ごとに表形式のデータを作成し、複数のデータセットを組み合わせることで小倉百人一首LODの全体を実現する。基本となるのは、
・小倉百人一首かるたデータ http://linkdata.org/work/rdf1s6834i
・小倉百人一首の歌人データ http://linkdata.org/work/rdf1s6833i
である。
翻訳データのデータセットとして、著作権保護期間が満了している英語翻訳4点を選び、次のデータを新規作成した。上記のかるたデータと歌人データへのリンクを形成した。
・Translations List of Ogura Hyakunin Isshu(小倉百人一首の翻訳リスト) http://linkdata.org/work/rdf1s8016i
- English Ogura Hyakunin Isshu translated by William N. Porter http://linkdata.org/work/rdf1s8014i
- English Ogura Hyakunin Isshu translated by Clay MacCauley http://linkdata.org/work/rdf1s8015i
- English Ogura Hyakunin Isshu translated by F.V. Dickins http://linkdata.org/work/rdf1s8099i
- English Ogura Hyakunin Isshu translated by Yone Noguchi http://linkdata.org/work/rdf1s8100i
かるたデータからは、古典籍データへのリンクもあるため、和歌から古典籍データへも翻訳データへもつながることができる。
[語彙の改訂]
語彙については、翻訳データへのリンクを形成するため、下記のとおりの修正を行った。なお、今回、作成した翻訳データは英語翻訳作品のみだが、他の言語にも適用できるように多言語を想定した設計となっている。
(1)各翻訳作品の和歌のリソースに対して、次のプロパティを定義した。
dc:description 和歌翻訳のテキスト
karuta:romanTranscription 英語ローマ字表記
karuta:annotates 注釈
dc:title 和歌のタイトル
bibo:translationOf 和歌リソース
dc:creator 歌人
dcterms:creator 歌人へのリンク
bibo:translator 翻訳者
dcterms:contributor 翻訳者へのリンク
dc:source 翻訳本のタイトル
dcterms:isPartOf 収録書誌へのリンク
(2)小倉百人一首の翻訳作品のリソースに対して、次のプロパティを定義した。
dc:title タイトル
bibo:translator 翻訳者
dcterms:contributor 翻訳者のリソース
dc:publisher 出版社
dc:date 出版年
dcterms:source 翻訳の底本(CiNiiBooksの書誌)
rdfs:seeAlso NDLの書誌
bibo:note 備考
dcterms:hasPart 収録している和歌へのリンク
(3)かるたデータのマスターとなる「小倉百人一首かるたデータ」にヨミのローマ表記と翻訳作品へのリンクを追加した。
karuta:roamanTranscription ヨミ(ローマ字表記)
bf:translation 翻訳へのリンク
あわせて、dc:descriptionの適用ルールを見直し、既存の全データの修正を行った。
小倉百人一首LOD作成時に課題となっていたのは、和歌の本文そのもののプロパティを如何に設定するかという問題であった。初期の小倉百人一首LODではrdfs:labelとしていたが、和歌の本文はラベルではなく、リソースの記述そのものであるという考え方に改め、dc:descriptionを適用することとした。一方で、郷土かるたLODではdc:descriptionを使って、かるたの解説を記述していた。かるたに解説や注釈が付くことは、百人一首においても想定されることから、解説のプロパティとしてdc:descriptionを用いず、karuta:annotatesを独自定義することとした。(bibo:annotatesはrangeがURLに限定されていたため、独自定義とした。)
語彙の大幅な改訂となったため、語彙のバージョン管理を行い、GitHub上で提供する方式とし、Namespaceもhttps://github.com/tnanako/karutalodに変更した。2019年8月現在の最新バージョンは ver.3.0である。
[独自性・活用の可能性]
小倉百人一首には、遊びとしての知名度・人気があり、かつ和歌研究にも膨大な資料的な蓄積がある。「小倉百人一首LOD」の価値を高めるために、今年度は翻訳をデータ化し、従来から提供している古典籍画像と英語の翻訳とのリンクを実現した。日本の文化情報資源のオープンデータを世界に発信するためのデータ基盤となる。以下のような、データの活用の可能性がある。
(1)英語の小倉百人一首ゲーム
英語でのゲームアプリケーションの開発が可能となる。加えて古典籍画像ともリンクしているので、アイデア次第で従来にないアプリ開発が可能になる。
(2)翻訳の比較研究
小倉百人一首の翻訳本は数多く存在する。翻訳データが増えてくれば、翻訳の比較研究にも利用できるデータとなる可能性がある。多様な翻訳を楽しめるだけではなく、ローマ字表記も異なっていることから、翻訳者の解釈の違いや日本語の音読みについても検討できる。
更新: 2019年9月15日
(Nanako Takahashi)