【エントリー作品の詳細説明】
小倉百人一首LODは、全国各地の図書館に所蔵している古典籍の画像データと翻刻データなど、小倉百人一首に関連する情報を提供するデータセットである。LODチャレンジ2017において、データセット部門最優秀賞を受賞し、以来、英語翻訳データ、音声データなどを、順次、追加拡充してきている。今回の作品では、江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎の「百人一首うばがゑとき」のデータセットを作成し、既存のデータとリンクした。
【「百人一首うがばがゑとき」について】
葛飾北斎の「百人一首うばがゑとき」は、百人一首を老婆(乳母)が説明する絵解きとなっているという趣向で作られた錦絵(1枚刷りの浮世絵)である。漢字でかけば「姥(または乳母)が絵解き」となる。ただし、単純に和歌の意味を表現したものではなく、その絵の解釈は難解で、機智にとんだ仕掛けがちりばめられている。刷はことのほか豪華であり、鮮やかな色彩と大胆な構図を得意とする北斎の風景画である。
江戸時代の天保6年(1835)から天保7年(1836)に刊行されたとみられるが、途中で西村屋与八(永寿堂)から伊勢屋三次郎(栄樹堂)に版元が変わり、27図が出版されたところで刊行打ち切りとなった。版下は100枚描かれていたらしく、後に版下を入手した佐藤章太郎が大正時代に4図(素性法師、中納言敦忠、赤染衛門、前中納言匡房)を刊行した。最終的に31図のみの未完の百人一首といってよい。
葛飾北斎(1760~1849)は、江戸時代を代表する浮世絵師である。その作品は欧州へと伝播してジャポニズムを生み出し、19世紀後半の西欧美術に大きな影響を及ぼしたとされている。海外での北斎人気を反映するかのように、「百人一首うばがゑとき」は、日本だけではなく欧米の美術館や図書館にも所蔵されている。
これらの国内外で所蔵する錦絵「百人一首うばがゑとき」のうち、オープンなライセンスを明示して提供されているものをLODのデータセットとして作成した。
【LODの収録対象】
収録対象とした所蔵館は、以下のとおり、7機関84図である。
・国立国会図書館 16図 (日本)
・東京国立博物館 6図 (日本)
・メトロポリタン美術館 (The Metropolitan Museum of Art) 24図※ (アメリカ)
・大英博物館(British Museum) 31図※ (イギリス)
・アムステルダム国立美術館(Rijksmuseum) 3図 (オランダ)
・チェスター・ビーティ図書館 (Chester Beatty Library)3図 (アイルランド)
・東アジア美術館(Östasiatiska musee)1図 (スウェーデン)
※同じ作品を重複して複数枚所蔵しているものもあるため、錦絵の枚数でいえばメトロポリタン美術館は31枚、大英博物館は37枚である。
※大英博物館には、版下4図(中納言兼輔、坂上是則、平兼盛、皇嘉門院別当)の所蔵もあったが、今回の対象からははずしている。
この所蔵調査には、Japanサーチ、ARC浮世絵ポータルデータベース、europeanaを用いた。ライセンスが不明またはオープンではないため対象からはずしたものには、Ronin GallaryArt、Institute of Chicago、Österreichisches Museum für angewandte Kunst、Museum of Fine Arts Bostonなどがある。収録数は減ってしまうが、オープンなデータをつなげるという小倉百人一首LODの基本原則を堅持した。
なお、国内では、町田市立国際版画美術館で27図(江戸期刊行のすべて)、すみだ北斎美術館では23図を所蔵していることが確認されているが、一部の画像がウェブに展示掲載されているのみであり、オープンデータとしては提供されていない。
【本作品の意義と活用可能性】
本作品は、従来の古典籍翻刻を拡張し、錦絵(一枚刷りの浮世絵)を小倉百人一首LODに追加したものである。既存の古典籍データの中には菱川師宣や歌川国貞の浮世絵も含まれていることから、同じ和歌がどのように描かれたかを比較することも可能であり、活用の幅が広がった。
(既存データの例 菱川師宣 https://linkdata.org/work/rdf1s6837i , https://linkdata.org/work/rdf1s7295i , 歌川国貞 https://linkdata.org/work/rdf1s7295i )
さらに、本作品は海外で人気を博した葛飾北斎の浮世絵であることから、所蔵館のデータが欧米まで広がったことが特徴である。小倉百人一首LODには既に英語翻訳データ( https://linkdata.org/work/rdf1s8016i )や音声データ( https://linkdata.org/work/rdf1s8930i )も提供していることから、これとのリンクが形成されることで、海外での活用も見込まれる。
また、「百人一首うばがゑとき」はそもそも31図しか刊行されていない。百首が揃っていなければデータとして完璧ではないという考え方に陥ることなく、存在するものだけをデータ化し、断片的な情報をリンクすることで全体が見えてくるというおもしろさを示したところに本作品の意義がある。
たとえば、現時点でデータを収録したものだけでの集計ではあるが、最も所蔵機関数が多かった錦絵は参議篁「和田の原八十島かけて漕出ぬと人には告よあまのつり船」であることや、海外での残存枚数をみると、柿の本人麿「あしひきの山鳥の尾のしたりをのながゝゝしよをひとりかもねん」が最も多い、というようなこともわかる。
【北斎「百人一首うばがゑとき」に関する参考文献】
・百人一首姥がゑとき / 葛飾北斎 [画] ; 田辺昌子解説. -- 東京 : 二玄社 , 2011.4. -- 126p ; 26cm. -- (謎解き浮世絵叢書). -- 監修: 町田市立国際版画美術館 ; 作品目録: p124-125. -- ISBN 9784544212037
・北斎百人一首 : うばがゑとき / ピーター・モース著 ; 高階絵里加訳. -- 東京 : 岩波書店 , 1996.12. -- 223p : 挿図 ; 26×36 cm. -- ISBN 4000081845
【新規作成データ】
・葛飾北斎「百人一首うばがゑとき」 https://linkdata.org/work/rdf1s10290i
【修正したデータ】
・小倉百人一首かるたデータ https://linkdata.org/work/rdf1s6834i
※reference にそれぞれの和歌から北斎「百人一首うばがゑとき」の和歌にリンクを追加した。
・小倉百人一首オープンデータ画像リスト https://linkdata.org/work/rdf1s6836i
※北斎「百人一首うばがゑとき」を追加した。
【データモデル】
基本となるデータとして、錦絵1枚ごとの書誌単位をリソースとした。北斎の「百人一首うばがゑとき」だけを抽出できるように、著作をまとめるリソースを設けてリンクした。また、錦絵1枚は1つの和歌に対応している。かるたマスタデータ(小倉百人一首かるたデータ https://linkdata.org/work/rdf1s6834i)の和歌のリソースに対してリンクした。
本作品は従来から取り組んできた古典籍の翻刻と基本的には同種の資料である。語彙は従前に追加はないが、一部の語彙を適用する範囲を広げた。なぜならば、従来は所蔵機関ごとに古典籍の書誌をリソースとしてきたのに対して、「百人一首うばがゑとき」の著作レベル(work)での書誌をリソースとしたために、所蔵機関に関わる情報を記入する必要があったためである。
具体的には、小倉百人一首のオープンデータ画像リストに適用してきた以下の語彙について、必要に応じて、各所蔵機関の個別のリソースに記入することとした。
dc:title 作品のタイトル
bibo:owner 原本の所蔵者
owl:sameAs 原本の所蔵者が提供する書誌データ
dcterms:license 画像の利用条件
rdfs:seeAlso IIIFマニュフェスト
更新: 2024年10月5日
(Nanako Takahashi)