〇データ詳細説明
教科書の中の源氏物語LODとは
東京学芸大学附属図書館では、令和6年5月に企画展示「出会い、学ぶ『源氏物語』」を開催した。平安文学ひいては日本を代表する文学作品の一つである『源氏物語』は、現代でも特に高等学校古典の教材として教科書に取り上げられ、今日まで学ばれ続けている。こうした学習教材としての『源氏物語』に着目し、江戸時代の往来物、近・現代における検定教科書など、教育資料を紐解いた。
出会い、学ぶ『源氏物語』
https://lib.u-gakugei.ac.jp/about/exhibitions/966
当館は教科書を教育コレクションの一つに位置付け、網羅的な収集を行っており、4年ごとに改訂・出版される小・中・高等学校の教科書を受け入れし続けている。全体的な動向として、戦後検定教科書における『源氏物語』掲載例は、中学校国語の教科書では一部の年代に僅かに見られるに留まっており、高等学校古典分野の教科書では、初期から現代まで継続的に多数見られた。そこで、企画展示準備として東京学芸大学附属図書館が所蔵する高等学校古典分野の教科書約667件を対象に調査を行い、433件の掲載教科書と、各教科書における『源氏物語』掲載巻のデータを得ることができた。
「教科書目録情報データベース」(公益財団法人 教科書研究センター)によれば、古典分野の戦後検定教科書は、748件刊行されている(同データベースの「古典総合」「古文」の令和6年10月4日の検索結果から漢文単体を扱う教科書を除いた件数)。当館所蔵資料は667件とほぼ9割をカバーしており、本調査結果は戦後から現代までの高等学校古典分野の検定教科書における『源氏物語』の掲載状況を把握する上で十分なデータであるといえる。
「教科書目録情報データベース」公益財団法人 教科書研究センター
https://textbook-rc.or.jp/search/
本データにより、戦後から現代まで、検定教科書においては殆ど途切れることなく『源氏物語』が高等学校古典分野の教科書に掲載され続けていることがわかる。掲載巻のデータからは『源氏物語』の教材としての歴史も垣間見られる。教科書は戦後教育の中で人々が古典文学作品に触れる身近な存在であり、『源氏物語』にいかに出会い、学んだかを示す享受史資料、人がかつて学んだ教科書の『源氏物語』に思いを馳せる拠り所になり得る。教育実践や教育研究における利活用はもちろんのこと、個人として作品を楽しむデータとして、そして未知なる可能性において本データを広く活用いただきたく、オープンなデータとして公開することとした。
LODデータとして構築する上では、特に教育実践、教育研究での利活用を意識し、「学習指導要領の一覧(教育研究情報データベース)」(国立教育政策研究所)で公開されている学習指導要領本文データ、「学習指導要領LOD」(教育データプラス研究会)、「教科書LOD」(教科書LODプロジェクト)との関連付けを行った。教材として『源氏物語』を扱う上で原本等へのアクセスを容易にし、教科書を基点に作品をより深く学び楽しめるように「デジタル源氏物語」(裏源氏勉強会)との関連付けも行った。また、各教科書そのものにもアクセスできるよう、「CiNii Research」(国立情報学研究所)の書誌データも関連付けている。
【謝辞】
本データ作成にあたっては、高等学校古典分野の戦後検定教科書調査実施において仲佐美郷氏(東京学芸大学大学院)に協力をいただいた。LODデータ構築にあたっては、教育データプラス研究会、教科書LODプロジェクト、裏源氏研究会の皆様から、関連付けの快諾をいただいた。LODデータ設計や公開に向けては、高久雅生准教授(筑波大学)、江草由佳総括研究官(国立教育政策研究所)、高橋菜奈子氏(新潟大学)から多くの助言をいただいた。ここに記して深く感謝申し上げる。
【LODデータ構築】
東京学芸大学附属図書館 Möbius Open Library(MOL) LODデータ構築チーム:
南雲修司、宗田友香、真家美咲、沼嵜日向子、田村優大、瀨川結美、山崎裕子
〇データセットの概要
1)基礎データ
本データセットは、高等学校古典分野の戦後検定教科書のデータ(※)である「教科書データ」と『源氏物語』の「巻」の一覧である「巻データ」からなる。
教科書とそれに掲載されている巻は、多対多の関係性を持つため、データを分けて相互に参照させることで、データ内の重複を防ぐ設計となっている。
※漢文単体を扱った教科書は収録対象外としている。調査対象とした教科書は全て収録し、『源氏物語』を掲載しない教科書データを含んでいる。
【巻データ 語彙】
dc:title 『源氏物語』の巻の名前
genjitext:titleKana 『源氏物語』の巻の名前のヨミ
genjitext:titelRoman 『源氏物語』の巻の名前のローマ字
bibo:number 当該巻の帖番号
dc:description 宇治十帖等のその他の巻の情報
dc:references 当該巻のデジタル源氏物語へのリンク
schema:workExample 当該巻が掲載された教科書へのリンク
dc:isPartOf 『源氏物語』のwikidataへのリンク
owl:sameAs 当該巻のWikidataへのリンク
【教科書データ 語彙】
dc:title 『源氏物語』が掲載された教科書のタイトル
dc:publisher 『源氏物語』が掲載された教科書の出版社
textbook:authorizedYear 『源氏物語』が掲載された教科書の検定年
textbook:textbookSymbol 『源氏物語』が掲載された教科書の教科書記号
textbook:textbookNumber 『源氏物語』が掲載された教科書の教科書番号
dc:hasPart 当該教科書に掲載されている『源氏物語』の巻へのリンク
owl:sameAs 当該教科書の教科書LODへのリンク
dc:references 当該教科書のCiNii Booksの書誌へのリンク
genjitext:curYear 当該教科書に対応する学習指導要領の告示年
textbook:curriculum 当該教科書に対応する学習指導要領の国立教育政策研究所の学習指導要領データベースへのリンク
textbook:curriculum 当該教科書に対応する学習指導要領の学習指導要領LODへのリンク
2)各種公開データとの関連付け
【データのつながり】
本LODデータは、複数の外部公開データと関連付けて構成している。
「巻データ」は、「デジタル源氏物語」(裏源氏勉強会)や「Wikidata」へのリンクを含んでいる。
「教科書データ」は、「学習指導要領の一覧:教育研究情報データベース」(国立教育政策研究所)、「学習指導要領LOD」(教育データプラス研究会)、「教科書LOD」(教科書LODプロジェクト)、「CiNii Research」(国立情報学研究所)へのリンクを含んでおり、様々なデータセットとの有機的なつながりを生み出している。なお、「学習指導要領LOD」は1989年以降を対象としており、対象外となっている年代については、「学習指導要領の一覧:教育研究情報データベース」(国立教育政策研究所)と関連付けることで補っている。
【アイディアのつながり】
「教科書LOD」へのリンクというアイディアは「小倉百人一首LOD」(高橋菜奈子氏)でも利用されている考えである。また、教科書の使用学年や教科書番号を入れるというアイディアは「教科書LOD」でも利用されている。このように、「教科書の中の源氏物語LOD」の構造設計は、先行するLODデータの設計アイディアを取り入れたものとなっている。
【二次利用について】
なお、本データセットは、ライセンス「CC- BY 4.0(表示4.0国際)」で公開しており、自由な二次利用が可能である。
「デジタル源氏物語」(裏源氏勉強会)
https://genji.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/
「Wikidata」
https://www.wikidata.org/
「学習指導要領の一覧:教育研究情報データベース」国立教育政策研究所
https://erid.nier.go.jp/guideline.html
「学習指導要領LOD」(教育データプラス研究会)
https://w3id.org/jp-cos/
「教科書LOD」(教科書LODプロジェクト)
https://w3id.org/jp-textbook/
「CiNii Research」国立情報学研究所
https://cir.nii.ac.jp/
「小倉百人一首LOD」(高橋菜奈子)
http://karutalod.web.fc2.com/ogura.html
https://user.linkdata.org/user/tnanako/work
3)データのLOD化
【データの有用性】
本LODデータの有用性として、戦後に刊行された概ね全ての高等学校古典分野の検定教科書を調査して得られたファクトデータとしての『源氏物語』掲載教科書データ、各教科書における掲載巻データをオープンに公開することが挙げられる。データを取得するには、現状では人手による調査で実資料に逐一当たる必要がある。データをオープンに公開することにより、調査・研究にかかるコストをサポートし、教育・研究活動等の進展の後押しが可能となるものと考えられる。
【データ利用のしやすさ】
本LODデータは、各項目での絞り込み、検索を容易に行うことができる設計としている。「巻データ」と「教科書データ」を独立させた設計としたことで、それぞれのデータを他のデータとつなげて参照させることも可能である。
また、各プロパティの情報量を減らし、プロパティの数を増やすことで、各プロパティが示す情報を明確にしている。教科書に掲載されている巻、巻が掲載される教科書の情報をリテラルではなく、URLで持たせることや、巻データと教科書データを分けて項目の重複を防ぐことで機械可読性を上げている。
【データの連携可能性】
本LODでは、データ内で複数の外部データを参照し、データ間のつながりの可能性を可能な限り追求した。独自プロパティの採用を最小限にし、「教科書LOD」等の外部リソースと共通化することで利便性を上げている。
〇データの更新について
本LODデータは、新規に刊行された教科書を「教科書データ」へ容易に追加可能な設計としている。「巻データ」についてもプロパティを増やすことで巻に関連した情報を更に充実させることが可能な設計としている。
具体的には、設計した「教科書データ」のフォーマットを利用すれば教科書データを容易に追加・更新することができ、今後刊行され、受け入れた教科書データの増補が可能である。また、他の図書館等の機関、資料所蔵者が、本LODの「教科書データ」のフォーマットを利用してデータを作成することも可能である。更に、「巻データ」の設計を拡張したり、他の文学作品に応用し、他の文学作品に関するデータを作成したりすることも可能と考えられる。
〇活用の可能性
(1)教育実践における利活用
常に多忙を極める学校教員にとって、豊かな教育実践には教材の研究が必要となり、課題とされている。本データの提供により、『源氏物語』に関する学びの過去例や傾向等の把握、実際の教科書へのアクセス、学習指導要領の参照、さらに原本画像等の授業を拡張発展させるための情報へのアクセスを容易とすることを目指している。今後、学校教員が参照しやすい形でのデータ提供に対応していく予定である。
(2)研究における利活用
教科書に掲載された源氏物語のデータをLOD化することで、各時代においてどの巻が学ばれているか等の把握が容易となり、国語教育研究に資することが期待される。学習指導要領と関連付けたデータとすることで、各時代の教育方針等に照らし合わせる等、様々な観点での調査・分析にも耐えうる設計としている。
また、教科書は文学研究においても研究対象の一つとなっており、『源氏物語』享受史の研究等にも資する可能性を持っている。
(3)『源氏物語』との出会いの場
戦後教育において、教科書は『源氏物語』のイメージ形成の一端を担っていると考えられる。本データからは、各教科書が断片的に『源氏物語』を扱っていることがわかり、本データを概観することによって、これまで出会わなかった巻との出会いを生み出すことにも資する可能性を持っている。
〇関連情報
本データは、Excelデータとしても公開を行っている。
教科書の中の源氏物語
http://hdl.handle.net/2309/0002000685
更新: 2024年10月16日
(東京学芸大学附属図書館)