【エントリー作品の詳細説明】
小倉百人一首は、誰もが知っている日本の伝統的なかるた遊びである。正月に皆が集って遊ぶ歌がるたや坊主めくりだけではなく、漫画『ちはやふる』にみられるごとく、競技かるたも人気を博すなど、かるたのゲームとしてさまざまな楽しみ方がある。一方で、小倉百人一首は平安時代から鎌倉時代初期に藤原定家が和歌100首集めて編纂した歌集でもあり、古くから、かるただけでなく、和歌としても親しまれ、書写されたり注釈がつけられたりしてきた。和歌の研究としても膨大な蓄積があるテーマである。全国各地の図書館には、刊本・写本・錦絵・書道の手本など様々な形態の資料が所蔵されており、近年、図書館が所蔵する古典籍画像にオープンなライセンスが付与され、公開されるようになってきた。本アイデアは、各地でバラバラに公開されている古典籍画像をかるたデータとしてリンクし、活用をはかるものである。「小倉百人一首LOD」は文化情報資源として発展の可能性をもった豊かなかるたの情報をもっと身近に感じられるようにするための取り組みである。
[独自性]
かるたのLODは世界的にも事例がなく、昨年度の「郷土かるた」に続き、「小倉百人一首」のLOD化に取り組んだ。これは、生活の利便性に直結するオープンデータの利活用だけではなく、生活を豊かにする文化情報資源のオープンデータを活用し、その価値を高めるための取り組みでもある。小倉百人一首には、遊びとしての知名度・人気があり、かつ和歌研究にも膨大な資料的な蓄積があるため、LODとして活用された場合のインパクトが高い素材である。
[実現可能性]
「小倉百人一首LOD」のデータは下記のような構成である。
小倉百人一首かるたデータ http://linkdata.org/work/rdf1s6834i
小倉百人一首の歌人データ http://linkdata.org/work/rdf1s6833i
小倉百人一首オープンデータ画像リスト http://linkdata.org/work/rdf1s6836i
・小倉百人一首(国立国会図書館所蔵) http://linkdata.org/work/rdf1s6837i
・小倉擬百人一首(国立国会図書館所蔵) http://linkdata.org/work/rdf1s6838i
・小倉山荘色紙型和歌(国立国会図書館所蔵) http://linkdata.org/work/rdf1s6839i
・小倉百首(大阪市立図書館所蔵) http://linkdata.org/work/rdf1s6840i
・小倉百人一首(国文学研究資料館所蔵) http://linkdata.org/work/rdf1s6856i
「かるたデータ」と「歌人データ」はすでに作成済みである。各地の図書館が所蔵する古典籍画像については「オープンデータ画像リスト」を作成し、翻刻は資料ごとに作成することとした。現在、代表的な資料5点のデータが作成済みであり、順次、追加予定である。
※詳細は http://karutalod.web.fc2.com/ogura.html も参照してください。
[アイデア(1)ゲームと古典籍の融合]
小倉百人一首LODの基本となる「かるたデータ」では、和歌をリソースとしてゲームアプリ開発に必要な情報をRDF形式で整理した。加えて、各地の図書館等で所蔵する古典籍の画像のうち、オープンなライセンスを明示した形で公開されているものについて、画像のURLと翻刻のデータを作成し、基本となる「かるたデータ」からリンクを形成している。このことにより、ゲームアプリケーションの開発者が古典籍画像を利用しやすくなる。かるた遊びの世界に古典籍を融合させることができる。
[アイデア(2)和歌研究]
小倉百人一首は、定家が小倉山で編纂したという由来から、もともとは「小倉山荘色紙和歌」「小倉色紙」と呼ばれていたが、時代が下るにつれ「小倉百人一首」という名称が定着した。また、室町時代に宗祇によって「百人一首抄」が記され研究・紹介されたのをはじめ、数多くの注釈本も作成された。『国書総目録』にも数多くの刊本・写本が収録されている。和歌の研究としても、古来から現代にいたるまで、膨大な研究の蓄積がある※。小倉百人一首LODの古典籍画像では、それぞれの和歌の表記の違いを忠実に翻刻した。現時点では翻刻データの数が少ないが、今後、数多くの古典籍画像を集積し、翻刻していけば、各種の刊本・写本の比較研究ができるようになることが期待できる。和歌研究のオープンサイエンスに資するものに発展する可能性がある。
※百人一首研究のガイドブックとしては『小倉百人一首を学ぶ人のために』(糸井通浩編 世界思想社 1998.10), 『百人一首研究ハンドブック』(吉海直人編 おうふう 2002.5) を参考にした。
[既存オープンデータの活用]
本アイデアは、既存のオープンデータをつなぐことの有効性を示すための一つのモデルである。各地の図書館でオープンなライセンスを付与して公開され始めた古典籍の画像データを、リンクすることで、新しい発想でのデータの活用が可能になることを示そうとしたものである。作成したデータはCCBYで提供する。リンクしている古典籍画像も、CC0、CCBY、CCBY-SA相当の利用条件で提供されているものに限っているため、「小倉百人一首LOD」全体のオープン性は確保されている。既存のオープンデータに付加価値を与え、流通に寄与するものである。
[展開性]
オープンデータの古典籍画像の翻刻は順次すすめていく。小倉百人一首の現存写本は千を超える種類が存在するといわれており、注釈書は古来から現代にいたるまで全貌が把握できないほどの膨大な蓄積がある。各地の図書館で画像がオープンに公開されているものを収集するだけでも十分な数が予想され、数多く収集すればするほど価値が出てくることを期待している。また、小倉百人一首は、古くから英語翻訳も多数、存在する。今後、著作権保護期間が満了している翻訳コンテンツのデータ化にも展開したい。
更新: 2018年1月9日
(Nanako Takahashi)