【経緯】
WHOが1980年に発表した「国際障害分類」では障害を原因と結果という一方向の流れで定義していたが、2001年に発表された第2版では、社会との関わりによりプラスにもマイナスにもなり得る双方向の関係性を持つものとして定義し直された。(*1)
すなわち障害の状態は社会との関わりにおいて良くもなり悪くもなる可能性がある、ということである。これは健常者にとっても同様であり、障害の有無に関わらず、可能な限り自分の力と意思で社会に関わることができるということは基本的な人権であると言えよう。
社会と関わるための第一歩は独力あるいは介助者を伴う外出を阻害するバリアーをできるだけ排除することであり、そのための法制度やインフラの整備は近年進み始めているが、様々な理由によりそれを活用するための情報処理の仕組みにはなかなか使いやすいものが無いというのが現状である。
提案者の娘は車椅子利用者であり、就労訓練の一環として独力で(介助者無しで)研修先に移動する機会が増えている。その際、社会人の基本的なマナーである約束の時間を守るため、初めての場所に移動する際には事前の入念な移動経路チェックが必要だ。
経路の選び方は健常者とは大きく異なり、何より優先されるのがスタートからゴールまで、極力車椅子でスムーズに移動できることである。たとえ公共交通機関の乗車時間や移動距離は長くても、スムーズに移動できて時間の計算が確実にできることが何より重要である。
スムーズに移動できるかどうかのポイントは大きく2点ある。ひとつ目はエレベータを利用して移動できる乗降駅及び乗換駅探しである。エスカレータや階段に補助的な装置を付けたりしての移動もやむなく利用する場合があるが、それは人の流れを一時的に止めたり、介助する駅員さんや装置の事情で即対応することが難しい場合があり、時間を守りたい場合にはできるだけ避けたい方法である。
ふたつ目のポイントは駅から目的地までのできるだけスムーズな経路である。坂、階段、段差、交通量、道幅、歩道の有無、信号や横断歩道の無い箇所での横断の必要性など、完全にNGのものや状態によっては許容できるものなどがある。例えば階段は完全にアウトだが、段差はある程度(個人差はあるが例えば2cm)までなら独力で乗り越えることができる。
上記2つのポイントは実はかなりの部分、インターネット上で調べることができる。鉄道会社は駅のバリアフリー情報を提供しており、目的地までの経路の様子はある程度Google Street View(以下GSVと略記)で調べることができる。
しかしながらこれらの情報は人が見るための情報であって、機械が処理する形式になっていない。そのため現状では、鉄道路線図を見ながら経路上の乗降駅や乗換駅にエレベータが設置されているかどうかをひとつずつ調べ、さらに鉄道を降りてからの自力通行経路の道路の様子をGSVで念入りに調べる、といった作業を行っている。これは手作業でやるにはかなり厳しい作業である。また、GSVで必ずしも見たい箇所が網羅されているとは限らず、家族が現地まで調べに行くこともしばしばである。
【アイデアの概要】
(当面車椅子利用者に限定した)経路案内の仕組みを提供するシステムを開発する。鉄道各社が提供しているバリアフリー情報(*2)をオープンデータとして提供頂ければ、通常のものにバリアフリー情報を加味した鉄道経路探索を実現できると考えている。
また、GSVで見えない部分を補うものとして利用者参加型の写真投稿の仕組みであるMapillary(*3)を利用する。(Mapillary上の写真はCC BY-SA 4.0が適用されたオープンデータ)GSVに不足する情報はMapillaryを利用して写真を投稿・共有することで補う。投稿後、通常1日程度で公開利用可能な状態となる。
さらに経路探索の結果は現地写真付きの紙もしくはPDFで出力し、車椅子利用者自身が実際に現地で使えるものとする。
このシステムを利用する車椅子利用者が増えれば増えるほど通行できた経路、通行できなかった地点などの情報が蓄積され、サービス改善や正確性の向上につながる。これにより車椅子利用者の社会参加と相互支援を促進する自律的なエコシステムの構築を目指している。
更新: 2015年2月20日
(higa4(東 修作))